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自筆遺言書の法務局で保管制度のおはなし
2021年5月18日自筆証書遺言を法務局で保管するという制度(以下、自筆証書遺言の保管制度)が令和2年7月10日から始まっております。本日はその自筆証書遺言の保管制度について述べたいと思います。
これまで自筆証書遺言は、自宅で保管されるのが一般的でした。しかし、自宅での保管となると、他の相続人に改ざんされたり、こっそり処分されてしまったりする危険性があります。そこで、今回の民法改正で自筆証書遺言の保管制度が制定されました。
自筆証書遺言の保管制度にはいくつかのメリットがあります。
まずは、金額面です。自筆証書遺言の保管制度を使った場合、法務局に支払う手数料は3900円となります。公正証書遺言の作成と保管を公証人に依頼する場合ですと、遺産の額にもよりますが、5万円程度はかかるため、かなり安く済みます。
次に、手間がかからないという点です。公正証書遺言であれば、公証人と打ち合わせをして、証人二人をお願いする必要があり、少々ハードルが高く感じられるかもしれません。しかし、自筆証書遺言の保管制度であれば、自分で書いて、マイナンバーカード、運転免許証、運転経歴証明書などの本人確認ができる書面と一緒に、法務局に持ち込むだけです。証人の立会が不要ですし、かなり手軽であるといえるでしょう。
また、自筆証書遺言の保管制度には、相続開始の通知制度があります。
これは、相続人等の中で、誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした場合には、その他の全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知してくれる、という仕組みです。つまり、遺言者本人が死亡した後に、誰かが相続手続に着手すれば、遺言書の存在が他の相続人等にも明らかになるわけですから、明瞭で公平な相続手続きが期待できます。ただ、通知されるのは遺言書が保管されているという事実だけで、遺言の内容については通知されませんのでご注意ください。
更に、自筆証書遺言の保管制度を利用する際に、申し出をしておけば、遺言者が実際に死亡したとき、指定しておいた相続人等のうちの一人に、法務局が遺言書が保管されていることを通知してくれるという仕組みもあります。
これに対して、公正証書遺言にこれらのような仕組みはありません。つまり、相続人が遺言書の存在を知らないまま相続手続が行われてしまうという可能性があるのです。
このように、利点の多い自筆証書遺言の保管制度ですが、デメリットもあります。それは、遺言者本人が、法務局まで出向いて提出する必要があるということです。これは必ず本人でなければならず、司法書士など代理人に保管の申請を頼むことはできません。遺言者が入院している等、外出が困難である場合には、自筆証書遺言の保管制度を使うことは難しいです。この点、公正証書遺言であれば、出張料を支払えば、本人の居所まで公証人に出張してもらうことができます。
また、自筆証書遺言の保管制度は、あくまで保管のための制度なので、遺言の形式面や内容面の正確性、遺言者の遺言能力については担保されないという問題もあります。公正証書遺言であれば、公証人との打ち合わせもありますし、証人の立会もありますから、この点でも公正証書遺言は優れているといえます。ただ、自筆証書遺言の欠点である、形式面や内容面の正確性の担保は、作成時に専門家のアドバイスを受けることで十分補うことができます。
ここまで述べてきたように、どちらの制度にも一長一短があり、どちらを選択するかは利用者次第であるといえるでしょう。
当事務所では、公正証書遺言の作成サポートだけでなく、自筆証書遺言の作成についてのご相談も随時受け付けております。横浜のはづき司法書士事務所に、どうぞお気軽にご相談ください。よろしくお願いいたします。